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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)15号 判決

名古屋市西区清里町一八番地

原告

大昭工業株式会社

右代表者代表取締役

木村一太

右訴訟代理人弁護士

村下武司

河合英男

橘高郁文

同 弁理士

谷山輝雄

本多小平

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官 志賀学

右指定代理人

須藤阿佐子

三瀬和徳

鳥居幹治

木戸間總吉

大阪市天王寺区餌差町七番六号

補助参加人

株式会社大阪防水建設社

右代表者代表取締役

宇賀照夫

右訴訟代理人弁護士

倉田勝道

村林隆一

同 弁理士

三枝英二

谷川昌夫

右当事者間の審決取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

原告は、「特許庁が同庁昭和五六年審判第四八九七号事件について昭和五七年一一月八日にした審決を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告は、主文同旨の判決を求めた。

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、発明の名称を「パイプライン又は類似物にライニングする方法及び装置」とする特許第六一六一四〇号特許発明(昭和四二年七月七日に特許出願、昭和四六年二月六日に特許出願公告、昭和四六年八月二〇日に設定登録されたもの。以下、この特許を「本件特許」という。)の特許権者であるところ、昭和五六年三月一四日、本件特許の願書に添付した明細書及び図面の訂正をすることについて審判を求め、特許庁昭和五六年審判第四八九七号事件として審理されたか、昭和五七年一一月八日、右審判の請求は成り立たない旨の審決があり、その膳本は同年一二月二五日原告に送達された。

二  本件審決の理由の要点

本件審判請求にかかる訂正明細書の特許請求の範囲の記載に基づく発明(以下、単に「訂正後の発明」という。)の要旨は、次のとおりである。

「(1) 成分が混ぜられたとき急速に硬化する特性を有する材料の被覆でパイプラインにライニングする方法であつて、少くとも二個の別々の供給コンテナに、一方のコンテナ内の成分が他方のコンテナ内の成分なしには硬化しないような具合に各成分を分けて入れた成分供給源をパイプライン外に準備し、前記供給コンテナからの成分を別々の供給ホースを通してパイプライン内の材料塗布位置に配置される混合室及び遠心力利用塗布ヘツドを有するライニング機械に送り、前記混合室において前記供給コンテナからの成分を混合し、その直後に、かくして得られた被覆材料を、前記ライニング機械をパイプライン中で牽引移動せしめながら前記塗布ヘツドによりパイプラインの内面に塗布することから成る方法。」

これに対し、本件発明の特許出願前に頒布された刊行物である米国特許第三、〇二九、〇二七号明細書(以下、「第一引用例」という。)、実用新案出願公告昭三四-一五二八一号公報(以下、「第二引用例」という。)及び米国特許第三、一三五、六二九号明細書(以下、「第三引用例」という。)には、それぞれ次の事項が記載されている。

(第一引用例)

パイプの内面に塗装する装置であつて、ビチユメンを混合したエポキシ樹脂が入つている容器とその硬化剤が入つている容器をパイプの外に設け、それらの容器からそれぞれ別個の導管を通してパイプの内部に位置する塗布装置に樹脂と硬化剤を送り、この塗布装置の内部にある混合室で樹脂とその硬化剤を混合し、それを直ちに塗布装置の先端部にある回転式デイストリビユーターによつてパイプの内面に塗装しながらパイプを移動させ、その全長にわたつて、前記エポキシ樹脂を塗装する方法。

(第二引用例)

地中あるいは地上に設置したままの管路の内面に自動的に塗料等を塗装する方法であつて、塗料導管によつて供給される塗料をこの塗装装置の塗料収容回転筒に送り、その回転筒の表面に設けた塗料噴出口から塗料を噴出させ、それを塗装ローラーを介して管路内面に塗布しながら、この塗装装置を一方に牽引することによつて、管路全長にわたり塗装する方法。

(第三引用例)

パイプラインの内面に自動的にエポキシ樹脂を塗装する方法であつて、エポキシ樹脂を収容する容器とそれを硬化させる触媒を収容する容器を有するユニツトと混合室及び塗布ヘツドを備えた塗装装置を載せたユニツトを連結し、それらを走行装置を有するユニツトで牽引移動させながら樹脂と触媒を別々の供給ホースを通して前記塗装装置ユニツトに送り、混合室で各容器からの成分を混合し、その直後に、混合した樹脂をパイプラインの内面に塗布する方法。

訂正後の発明を第一引用例と比較すると、パイプと塗装装置の相対的位置移動の関係について、第一引用例はパイプが移動するのに対して、訂正後の発明は塗装装置がパイプの中を移動する点で相違するが、パイプラインの内面を塗装する装置において、塗装装置をパイプライン内で牽引移動させながら塗布する方法は、第二引用例及び第三引用例に記載されていることである。

訂正明細書の記載によると、訂正後の発明は塗装装置の構造を限定した方法であつて、塗装に当つてどのような塗料を使うか具体的な説明は何も記載されていず、塗料に特徴を有する発明であるとは認められない。しかも塗料の性質に関係がある塗装装置の構造としては単に塗料がホースライン内で硬化する可能性がなく塗料の損失もなくしたことをその特微の一つとしたに過きないと解されるものである。しかも、ホースライン内で塗料が硬化する可能性をなくすための具体的構造は、例えば塗料と硬化剤を材料塗布位置に配置した混合室まで別々の供給ホースで送り、混合室で回転混合ブレードで塗料とその硬化剤を混合し、その直後に、混合ブレードのミサキ軸上に支持され、この軸と共に回転するヘツドから塗料が遠心力によつて吐出され、パイプ内面に塗布されるものである。これに対して、第一引用例の混合室及び回転ヘツドの構造も、訂正後の発明の具体的構造と同じ構造を備えている。してみれば、訂正後の発明は、塗料の性質に適するようにするために従来の装置にはみられなかつた新規な構造を備えたものと解することもできない。

さらに、審判請求人は、訂正後の発明は、パイプラインにライニングをする方法であるから、引用例に記載の方法より塗膜が厚い塗装を目的としていると主張しているが、引用例に記載のコーテイングという語とライニングという語の間に、ある数値を境界として明確に区別するという差異があるとは解されず、仮に差があつたとしても、さきに述べたとおり、塗装装置の構造として、別個の構造を必要とする程の差異があるものではなく単に塗膜の厚さの程度の差に過ぎない。

したがつて、訂正後の発明は、引用例に記載の発明から当業者が容易になし得る程度のことであり、その特許出願の際独立して特許を受けることかできないものであるから、本件訂正審判請求は特許法第一二六条第三項により許されない。

三  審決を取消すべき事由

第二引用例及び第三引用例の記載内容が審決認定のとおりであることは争わないが、審決には、次のとおり、これを違法として取消すべき事由がある。

1  審決は、「第一引用例はパイプが移動するのに対して、訂正後の発明は塗装装置がパイプの中を移動する点で相違する」と認定しているが、訂正後の発明はライニング機械がパイプではなくてパイプラインの中を移動するのであるから、右認定は誤りである。パイプラインはパイプとは異なるものであり、この差異は内面被覆を形成する上で本質的な差異をもたらすものである。

2  審決は、訂正後の発明と第一引用例との次のような相違点を看過している。

(イ) 訂正後の発明で用いる被覆材料は「成分が混ぜられたとき急速に硬化する特性を有する材料」であるのに対し、第一引用例で用いる被覆材料は成分が混ぜられたとき急速に硬化するものではない。

すなわち、第一引用例はエポキシ樹脂と硬化剤を混合するものであるが、エポキシ樹脂と硬化剤の混合といつても極めて多様な硬化速度のものが従来から存在するのであるから、硬化速度について何ら言及しでいない第一引用例に「急速硬化性の混合材料」を使用するという技術思想が開示されているとは到底いえない。それどころか、第一引用例においては、エポキシ樹脂にビチユメンを混入させているのであつて、これは急速硬化とは逆の技術内容であり、第一引用例が急速硬化性の材料を使用する技術思想とは全く無縁であることを端的に示している。

審決は、訂正後の発明は塗料に特徴を有する発明とは認められないとしているが、訂正後の発明は、「成分が混ぜられたとき急速に硬化する特性を有する材料」を用いることを要件としているのであるから、塗料に特徴を有する発明であることは、明らかである。

(ロ) 訂正後の発明で形成される被覆はライニングであるのに対し、第一引用例で形成される被覆はコーテイングである。

すなわち、「ライニング」と防蝕に十分な厚さの被覆すなわち厚膜被覆を施すことを意味するものであるのに、第一引用例は単に被覆対象たるパイプを「コーテイング」するものにすぎない。第一引用例には、「一般に、混合材料は流れることなくパイプ内面に付着するに足る粘度を有していなければならない。しかしながら、該混合材料が低粘度となる程パイプ内面全体を均一に完全被覆するのに取扱いがより容易になる」(第六欄第一七行ないし第二一行)との記載、「エポキシ樹脂-ビチユメン組成物の粘度を低下させるために、溶剤ないし稀釈剤・・・を添加することができる」(第六欄第三〇行ないし第三四行)との記載があり、これらの技術内容は、塗料の粘度を低める方向を示唆しているものであつて、第一引用例は低粘性により付着する程度の塗膜厚を形成しようとするものであるというほかはなく、単にコーテイング方法を開示しているにすぎない。

審決は、コーテイングという語とライニングという語の間に、ある数値を境界として明確に区別するという差異があるとは解されない、とするが、訂正後の発明にとつて重要なことは両用語の数値的区別にあるのではなく、塗膜が厚くなると液だれの問題が単なる比例関係を越えて加速的に顕蓍になることに如何に対処して厚膜であるライニングをほぼ一様な原さで形成することができるかという課題に対して急速硬化特性の塗料を用いるという手段で解決するという新規な技術思想にある。塗膜の厚さはこの技術思想と密接不可分の関係にあるから、この関係に立つて論ずべきであつて、単なる数値上の原さの区別のみを採り上げて論ずるのは誤つている。

さらに審決は、コーテイングとライニングとで塗膜の厚さに「仮に差があつたとしても、先に述べたとおり塗装装置の構造として、別個の構造を必要とする程度の差異があるものではなく、単に塗膜の厚さの程度の差に過ぎない」としているか、訂正後の発明は方法の発明であつて装置の発明ではないのであるから、装置の構造との関連から膜厚の差を論するのは失当である。

(ハ) 訂正後の発明においては混合後塗布までの時間的間隔は「直後」であるのに対し、第一引用例においてはそのような時間的限定はない。

すなわち、第一引用例においては、急速硬化性の材料を使用していないため、混合直後という時間的制約はないのみならず、その塗布処理はパイプの一本一本に対する間欠操作となるため、むしろ、一つのパイプのコーテイング完了時から次のパイプのコーテイング開始までの時間的開隔が予定され、その間、混合ずみの材料はコーテイング装置中に停滞しており、混合直後に材料が塗布されるものとはいえない。

3  審決は、「訂正後の発明は、塗料の性質に適するようにするために従来の装置にみられなかつた新規な構造を備えたものと解することもできない」としているが、訂正後の発明は方法の発明であるから、審決が装置の構造のみの観点から進歩性の判断をしたのは失当である。

4  審決は、訂正後の発明の作用効果を看過している。

すなわち、訂正後の発明の目的ないし主たる作用効果は、回転も重ね塗りも不可能な円筒内面であるパイプライン内面に対して、急速に硬化する特性を有する材料を混合後直ちに塗布することによりライニング(厚膜被覆)を形成することにあり、このライニング方法は従来のセメントモルタルライニングに匹敵する防蝕性を備えた新規なライニング方法であり、かかる作用効果は第一引用例の作用効果とは全く異なるものである。

第三  被告の陳述

一  請求の原因一、二の事実は、いずれも認める。

二  同三の主張は争う。審決に原告主張のような誤りはない。

1  原告は、訂正後の発明においては塗装装置が移動するのはパイプラインの中であるのに、審決がこれをパイプの中としたのは誤つている旨主張するが、パイプラインとはパイプの連続体であるから、塗装装置がパイプの中を移動するとしたことをもつて誤りとすべきではない。

2  審決は、訂正後の発明と第一引用例との原告が主張する(イ)、(ロ)、(ハ)の相違点について、格別これを相違点として挙げる必要もないと考えたから挙げなかつたまでで、これを挙げなかつたことが直ちに審決の違法に結びつくものではない。

しかも、原告主張の(イ)の点に関しては、第一引用例で用いている二液反応性エポキシ樹脂を、どの程度の速さで硬化するものにするかは、当業者にとつて単なる設計事項にすぎないものと認められるから、第一引用例と訂正後の発明で用いる被覆材料に差異があるものとすることはできず、(ロ)の点についてはライニングもコーテイングもいずれも保護被膜を形成する処理であるから、その間に本質的な差異があるはずはなく、また(ハ)の点に関しては、訂正後の発明における「直後」というのも、何秒後、あるいは何分後というような具体的記載が訂正明細書に存在しないから、できるだけ速くという程度の意味しかなく、そのような意味の「直後」なら第一引用例においても、混合「直後」に塗布が行われているといつて差支えない。

3  原告は、訂正後の発明は方法の発明であるから、審決が装置の構造のみの観点から進歩性の判断をしたのは失当である旨主張するが、訂正後の発明は装置を限定した方法の発明であるから、装置と関連づけて論することは当然であり、審決が方法と関連づけて論じていないと非難するのは当らない。

4  原告は、審決が訂正後の発明の顕著な作用効果を看過している旨主張するが、既に述べたとおり、訂正後の発明と第一引用例記載の発明との間には、審決で認定した相違点以外には構成上の差異を認めるべき余地がないのであるから、両発明の間に効果上の差を生ずるはずはなく、原告の主張する効果が当業者の予測し得なかつたものであることを認めるに足る証拠もないから、原告の主張は失当である。

第四  証拠関係

記録中の該当欄記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  請求の原因一、二の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、審決にこれを取消すべき違法の点かあるかどうかについて判断する。

1  原告は、訂正後の発明においては塗装装置が移動するのはパイプラインの中であるのに、審決がこれをパイプの中としたのは誤つている旨主張する。

しかし、審決(成立について争いのない甲第一号証)は、「パイプラインの内面を塗装する装置において、塗装装置をパイプライン内で牽引移動させながら塗布する方法は、第二引用例及び第三引用例に記載されていることである。」とし、結局において、訂正後の発明がライニング機械をパイプラインの中を移動せしめるものと把握して判断していることが認められるから、原告の主張は理由がない。

2  原告は、訂正後の発明で用いる被覆材料は成分が混ぜられたとき急速に硬化する材料であるのに対し、第一引用例で用いる被覆材料は成分が混ぜられたとき急速に硬化するものではないのに、審決はこの相違点を看過している旨主張する。

しかし、訂正後の発明でいう「急速に」とは、どの程度の急速さをいうのか、明細書(成立について争いのない甲第三号証)の全体をみても判然とせず、また、第一引用例(成立について争いのない甲第四号証)で用いる被覆材料は、成分が混ぜられたとき、訂正後の発明でいうほど「急速に」硬化するものではないとも認められないから、この点に両者の差異点があるものとすることはできず、審決がその差異点を看過したとの原告の主張は理由がない。むしろ、訂正後の発明で「急速に」というのは、明細書(成立について争いのない甲第三号証)の発明の詳細な説明の項によれは、パイプラインライニングにおける「ライニング材料が混合後急速に硬化する性質であれば、該材料がライユングとして塗布される前に硬化する問題か生じ、且つ装置の停止及び取出しが必要なときに、該装置に至る供給ホース内で材料が硬化し、材料の除去が困難となる」ところ訂正後の発明はこの欠陥を除くことを目的とし、材料がその供給源からのホースライン内で硬化することなく、最終的に混合されてから、直ちに塗布されて硬化するほど「急速に」硬化することをいうものであると解されるところ、第一引用例においてもエポキシ化合物又はエポキシ化合物とビチユメンとの混合物及び硬化剤から成る二つの材料を、途中で混合硬化することがないように、別々の導管を通して混合室に圧送し、そこで混合された被覆材料を回転型分布器で還心力によりパイプ内面に分布させて塗布するものであり、混合室で混合された材料は訂正後の発明におけると同じ意味で「急速に」硬化するものであると認められ、硬化の急速さにおいて第一引用例のものと訂正後の発明との間に差異はないものと認められる。

原告は、第一引用例においては、エポキシ樹脂にビチユメンを混合させているから、急速硬化性の材料を使用する技術思想はない旨主張するが、訂正後の発明における「成分が混ぜられたとき急速に硬化する特性を有する材料」という場合の「急速に」の意味が前説明のとおりである以上、第一引用例のエポキシ樹脂にビチユメンを混合させたものも硬化剤と合して、訂正後の発明におけると同様「急速に」硬化する特性を有する材料であるということができるから、原告の主張は理由がない。

3  原告は、訂正後の発明で形成される被覆はライニングであり、第一引用例で形成される被覆はコーテイングであるのに、審決はこの相違点を看過している旨主張する。

成立について争いのない甲第八号証ないし第一二号証、乙第一、第二号証によれは、「ライニング」も「コーテイング」も共に、金属などの表面を防蝕などの目的で他の物質で被覆することを意味し、比較的厚く被覆する場合を「ライニング」、比較的薄く被覆する場合を「コーテイング」と呼ぶこともあるが、両者の区別は必ずしも明確ではなく、両者が同義語として使用されることもあることが認められる。

しかして、前掲甲第三号証によれば、訂正後の発明は被覆材料の比較的薄いライニングを形成することに関するものであることが認められ(同号証第一頁第一五行、第一六行)、前掲甲第四号証によれば、第一引用例には比較的厚いコーテイングを施す技術が示されているものと認められる(同号証第六欄第二三行ないし第二七行)。

そうすると、訂正後の発明において「ライニング」という語が用いられ、第一引用例において「コーテイング」という語が用いられていても、両者の被覆に実質的な差異はないということができ、原告の主張は採用できない。

4  原告は、訂正後の発明においては混合後塗布までの時間的間隔は「直後」であるのに対し、第一引用例においてはそのような時間的限定はないところ、審決は両者のこの相違点を看過している旨主張する。

原告の主張する「直後」が具体的にいかなる時間的間隔を指すものであるかは明らかではないが、前掲甲第三号証によれば、混合すると硬化する材料を混合したままで混合室あるいは塗布ヘツド内に長時間滞在させておくと被覆材料が硬化して塗布ヘツドから円滑に吐出させることができなくなるので、「直後」とはそのような状態になる前に被覆材料を吐出塗布すること、すなわち、被覆材料の混合から吐出塗布に至るまでの時間的間隔をいうものであると解されるところ、第一引用例においてもその意味で被覆材料の混合後塗布までの時間的間隔は「直後」であると認められ、訂正後の発明と第一引用例との間に差はない。原告の主張は理由がない。

5  原告は、訂正後の発明は用いる材料の急速硬化特性を利用してパイブラインに一様なライニングを施すという方法の発明であるから、審決が装置の構造のみの観点から進歩性を論ずるのは失当である旨主張するが、訂正後の発明は塗装装置の構造の限定を含む方法の発明であるから、審決が構造について検討を加えたのは是認できるところであり、しかも審決は装置の構造のみの観点から訂正後の発明の進歩性を否定したものではないので、原告の主張は理由がない。

6  原告は、訂正後の発明は顕著な作用効果を奏するものであるのにこれを看過した審決は誤つている旨主張する。

しかし、訂正後の発明が第一引用例ないし第三引用例に記載された発明から容易に発明をすることができない程度に顕著な作用効果を奏することを認めるに足る証拠はないから、原告の主張は採用できない。

三  以上のとおり、原告の主張はいずれも理由がなく、審決にはこれを取消すべき違法の点はないから、その取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高林克巳 裁判官 杉山伸顕 裁判官 八田秀夫)

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